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ものつくりの生活と仕事から。 大島寛太の日記パート2

トム

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今日、仕事場の2階で額のワックス掛けをしていると、
どこかから、カリカリ・・・カリカリ・・・と音がする。
顔にヒゲは生えてはいるが、聴覚は人並みに確かなものだ。空耳ではない。

鼓膜に伝わった微かな空気の振動を音に置き換え、記憶のなかから瞬時に一致する情報を探り当てる。音と、記憶の印刷されたトレーシングペーパーはピタリと重なり合い、そこに映像が浮かび上がる。間違いない。これはげっ歯類が木をかじっている音だ。

壁際に置いた道具簞笥の奥から音が聞こえるので、作業を中断して簞笥の方へ向かい、ゴンと足で蹴る。
やれやれ、こんな昼間っからうろちょろするもんじゃないってわかっただろう?
そこに居るのはわかってるんだよ。

と、その10分後。
『かりかり・・・かりかり・・・』
おいおいおい、さっき警告を与えたばかりだぞ?
テンプラにされたいのか?

もういちど簞笥を蹴った10分後。
『かりかり・・・かりかり・・・』


よーうし、わかった。


プロレスラーがリングで衣装を脱ぎ去るように、塗装用にはめていたゴム手袋を脱ぐ。頭脳は急ピッチで計画を練り上げている。壁際の簞笥をずりずりと動かし、床に膝をついて壁と簞笥の背板の隙間を覗き込む。北向きの窓の光がわずかに差し込む裏小路のようなその隙間の奥に、波形記号の形をした長いシッポがしっかりと見えている。

ここのところ毎晩、流し場に出て来て廃油石けんをかじってるのもお前だな?おかげでおろしたばかりの石けんがもう半分ほどになっている。俺は今から掃除機を取りに一階へ降りて、そしてすぐに帰ってくる。お前が逃げられないように、この板で出口は塞いでおく。せいぜいお祈りでも唱えておくんだな。助かるように、じゃなく、天国に行けるように。

階段を小走りに下りながら考える。げっ歯類の前歯は長いから、いきなり手掴みにして噛まれるなんてゴメンだ。まずお尻あたりを掃除機で吸う。そうするとあいつはお尻がバケツにはまったみたいになって、逃げられなくなる。そこをどう掴む?革手袋がいるな。それからつまんだげっ歯類をどうする?

台所に寄って、蓋付きのアルミ鍋を脇に抱える。つまんだ後はこの鍋に放り込む。それからどうするか?心配ない。ウチには、真夜中にわざわざ草むらに体を埋め、月の明るい日も暗い日もネズ公を狙っているニャゴちゃんがいる。家に帰ったらニャゴちゃんの前で、パッと鍋の蓋を開ける。慌てふためいた哀れなネズ公は、ニャゴちゃんにしばらく弄ばれてから、鼻の頭と胆嚢だけを残して、この世から消える。まあしょうがないさ。あれだけ廃油石けんとネーブルを食わせてやったんだ。いいネズ生だったじゃないか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

完璧な計画の準備を完璧に済ませ、
俺は、革手をはめ、右手に掃除機を握っている。そしてスイッチを入れる。
ウゥーーーーンという掃除機の無慈悲なモーター音が部屋を満たす。

げっ歯類には何のことだかわかるまい。少しずつ簞笥をずらして、もう少しで十分な隙間が出来るというところで、突然ネズ公が動き出す。てけてけてけてけーっとこっちへ向かってくる。壁の隅を走っている姿がスローモーションで、網膜から脳へと転送される。慌ててノズルを振り回す俺の横を走り抜ける。予想と反対の方向へ来たグラウンダーのボールを、右手で触りながら後ろへ逸らしてしまったゴールキーパーの気持ちを、俺は充分に理解する。そして振り返る。

ネズ公の姿は部屋の隅の、ゴミ箱にしている段ボールの後ろに隠れた。隠れたところで行動は分かっている。俺はネズ公のちょこまかと走る姿を透視する。もう出てくる頃だ。そら、出て来た。大丈夫。俺は落ち着いている。

段ボールの陰から出て来たネズ公は部屋の西側の壁伝いに南側の壁へ向かって行く。おれはもんどりうって、掃除機のノズルを振り回して追いかける。不規則な軌跡を描いて高みへ飛び去ってゆくモルフォ蝶を追い回す、柔らかな昆虫網のように、ノズルは空しく空を切る。もう一歩、あと数センチというところでネズ公は床に開いた穴から壁のなかへと吸い込まれるように消えた。突然の空白。

えっ?



掃除機のモーター音だけが、無慈悲さの意味合いを変えて、部屋のなかにいつまでもウゥーーーンと鳴り響いていた。





明日からは、僕の事は “手ぶらのトム” と呼んでください。
















 







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  1. 2013/03/30(土) 23:32:10|
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桜始開

72候の暦の通りに、桜が咲き始めました。
と、いうのもおかしいですね。

季節に沿って、暦がつくられたのだから。
しかし自然界には時計もないのに、なんときれいに、まあるく弧を描いて、ここに戻ってくる。
一日も誤らず、太陽が昇っては沈み、片時も休まず時が経過する。

ゼンマイを巻く人がいるのかいないのか、
律儀な時計のムーブメントに例えられるのか不可なのか、
時間の概念について考えるとつくづく、自分の想像力の範囲のなかでしか想像できないことにちっぽけさを感じます。


母が腰を悪くして3週間ほど寝込んでいて、明日から数日看病に行ってきます。

  1. 2013/03/23(土) 23:21:20|
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BSW

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ご注文でお作りしていた栗材のベッドサイドワゴンが手を離れました。
略してBSW。(略さないでもよろしい)

天板のフィンとマガジンラックはお客さまのリクエストです。
前に書きましたが、新聞広告に載っていた量産品のワゴンという下敷きがあり、
そこから離れるべきか、寄り添うべきか、自分のなかでずいぶんせめぎ合いがありました。
結局、つかず離れずというところでしょうか。
おそらく合板をダボでパンパンと組み立てた構造のデザインを、
無垢材で組むとしたらどうすれば良いのか。

組みやすいデザイン、慣れた接ぎ手をひとまずあきらめて、
ひとしきり頭をひねっていると、すこしずつ細部が埋まってゆきます。
ニワトリが卵をあたためるように、図面を書き直すうち、アイディアに愛着が湧いてくる。

最終的には、つくってみないとわからないので、これで行ってみようと思う。
思いを固める。
ふわふわしていた土を、よく踏み固めて、あとは振り返らないように。

さて、出来上がってみて思うところはいろいろとありますが、
ひとまずこうなんだな。そうか、こうなんだな。
次はこうしてみようというアイディアが湧いて来て、
またそれを試して、そのまた次に手渡す。
そうやって少しずつ、自分らしさというのは、
今ここにあるものじゃなくて、蒸留してゆくものなのだと、言い聞かす。









  1. 2013/03/20(水) 21:40:15|
  2. 仕事
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つばき

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今日の椿。





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今日のわらび






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今日の昼



いつも3月になると椿の美しさに目を奪われます。
そしてこの季節はいつも、なにか新しいことを始めたくなる。

あるいは、いつもとおなじものが、あたらしく見えるのだろうか。


  1. 2013/03/17(日) 00:34:44|
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菜虫化蝶

今日、3月15日は菜虫化蝶。
なむしちょうとけす。

菜の虫が蝶になり、飛び交い始める頃。とのこと。


家のまわりでは梅の花が散り、すももの花が咲きはじめました。
暖かい日に、外に出て耳を澄ますと蜜蜂の羽音が空気を震わせている。

ウグイスの屈託のないさえずり、木陰のフキノトウの花もひらき、いま薮椿が盛りです。



そんななか先日3月11日には、三陸の海岸を回っている親父からメールがありました。


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気仙沼の打ち上げられたままの大型船と、陸前高田からは一棟のビルだけが残った荒れ地のフォト。
自分が直面する現実の2面性に戸惑いを覚えます。

人を救う、社会を変える、そんな力のない自分。
ではせめて自分自身、自分たち家族が、よく考えて生きよう。

質素に美しく暮らそう・・・とは思っていません。
やりたいことが沢山あって、それは何年もかかるプランで、まずは自分の仕事をもっとつきつめていきたい。

仕事場のあそこをこうして、窓に建具を入れて、2階をギャラリーにして、あの機械を買って、あれをつくって、イメージをかたちにして、もっともっと漕ぎ出してゆきたい・・・

時間はあっという間に過ぎてしまうから、自分で設定した締め切りに首を絞められないようにしよう。焦らず、少しずつピースを埋めていこう。そのためにはやはり時間がかかる。それと健康と、健やかな毎日が必要。

そう、何よりも健やかな毎日が必要。
何をしようと思っても、今日を前向きに生きてゆくことが出来てこそ。

先日、関電から、原発を稼働できないので値上げをしますという通知が来ました。
おおいに結構。値上げするくらいで原発を動かさなくて済むのなら(現にいま、そうしているわけですが)、原発は全然いりません。








  1. 2013/03/16(土) 00:42:44|
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桃の節句には

先日3月3日に、龍神村で奥野夫妻の還暦祝いパーティーがありました。

和歌山県龍神村は、江戸時代には紀州徳川家の殿様に湯治場として愛された山村。

かつて車も道もない頃、山また山を越え秘境の湯に浸かる贅沢は、浮世を離れて心を解きほぐすひとときだったろうと想像します。長い道程を経て湯けむりを上げる龍神温泉に着き、帯を解き、清流日高川を見下ろして湯船に浸かった殿様の『フゥーっ』て溜息が聞こえるような気がします。

その後は森林資源を活かして林業を主産業とした龍神村ですが、時代の波に押されて林業景気が下火になると、村は過疎の一途を辿ります。日本中のいたる山村がそうであったように、若者は都市部へ流出し、先行きが見えない。

1980年代に入ると、龍神村ではそんな状況を打破しようと、芸術による村おこしに乗り出します。

誰が言いはじめたんだろうそんな事。現在では良くあるこの手の話ですが、当時は目立った前例もなく、かなり前衛的なアイディアだったんじゃないだろうか。

そして、龍神国際芸術村構想に基づいて、龍神国際芸術村開村宣言がなされるのが1983年。

奥野夫妻が龍神村へ移住して来たのが1984年。

結局、龍神国際芸術村構想については、開村宣言後間もなく村役場による牽引は自然消滅して、人だけが残る。残った人も次第に散り散りになっていくなか、奥野夫妻はかつて龍神村の特産であった和紙“山路紙”を復元しながらずっとそこに居残る。

僕のイメージのなかでは一本のろうそくの明かりが、ポポポポポと燃えている感じ。ほんの少しあたたかく、ほんの少しだけ明るい。人の、生きていることの体温の、36℃の熱量の、それ以上でもそれ以下でもない明かり。

それから30年。

いつしか、どうやってか、いま龍神村の界隈にはヨソから移住して来た、またはIターンしてきてモノつくりを生業とする人が随分たくさんいらっしゃいます。

3月3日には、そうした仲間たち後輩たちが喫茶アルエスに満員に集まり、あたたかく、面白く、二人の還暦をお祝いしました。

歌あり、笑いあり涙あり。馴れ初めの秘話あり・笑。

こうして、老若男女が自然に集う。

縦糸と緯(よこいと)が織りなす。

やっぱり龍神村ってすごくいいところなんじゃないかと感激した一日でした。







  1. 2013/03/07(木) 23:06:46|
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啓蟄

2月の末から行事が続き、暦をひとつ飛ばしてしまいましたが、
3月5日は24節気の啓蟄。けいちつ。
大地も暖まり、土のなかの虫が穴をひらいて顔を出す。
72候は蟄虫啓戸。ちっちゅうこをひらく。
冬のあいだ土のなかにいた虫も地上に出てくる頃。とのこと。



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年明けから、仕事の合間合間に来年分の薪を用意しています。
僕たち家族が暮らしている紀伊田辺は梅と柑橘と備長炭の産地です。
ここに暮らしてみれば、黒潮の海の幸や、温暖な気候に恵まれて一年中途絶える事のない野菜など、身近に暮らしを支える産物は数限りなくありますけれど、全国的に認知されているものといえば、梅とミカンと備長炭。なのかもしれない。

我が家ではゴエモン風呂を焚くのと、カマドで使うのに一年を通して薪が必要です。薪ストーブはない。家が狭いので置く場所がありません・笑。

一歩、家の玄関を踏み出せば、そこは一面の梅畑。右を向いても左を向いても、段々畑の下を見下ろしても上を見上げても梅畑。細い谷を挟んで、向こうの斜面にはミカン畑も少し。

この辺では、市街地や住宅地を離れて少し山間部に入ればほぼ同じような状況がひろがっています。

一昔前までは、農家の家でもそうでなくとも風呂を焚くのも御飯を炊くのも燃料は薪、魚を焼くのは炭という生活がずーっと続いていた。当時は里山と言えば何と言っても燃料としての価値が大きかったはずです。いま住んでいる家の裏山も、じいちゃんの世代までは秋になると架線を張って、皆で共同で薪を切り出していたそうです。

紀州で本格的に梅の栽培が始まったのは明治後期以降で、近所のじいちゃんに聞くと、子供の頃は牛を追うて田んぼを鋤いたっていうから、ここ長野地区では昭和に入ってから、それまで棚田であったところを、梅畑に転換していったようです。

薪が燃料として主流であった頃は、枝の一本まで貴重がられたはずで、今の石油とおんなじ扱いだったろうと想像がつきます。ところがいまは石油と電気が消費エネルギーの主流ですから、薪はいらない。

そこで、漁父の利よろしくわたくしが舞台の下手からさささーっと、ほっかむりをして出てくる訳です。農家の方が改植や剪定で伐る梅の木を、わたくしが有り難く頂戴いたします。



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薪を頂きに行くと、梅畑には蜂の巣箱が並んでおります。




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蜂さん、せっせと働いております。
ちなみに梅の蜂蜜は苦いかなにかで食用にはならないそう。







  1. 2013/03/07(木) 00:22:19|
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